時を超えて、心地よく。暮らしに寄り添う瓦の選び方 #column
はじめに:屋根に「想い」をのせるということ
家にとって、屋根とはただの構造物ではありません。暑さ、寒さ、風、雨。毎日の自然の変化から私たちを守り、どっしりと構えて家の個性を映し出す――それが屋根の役割。そして中でも「瓦」は、長い歴史の中で日本の家を守ってきた、誇り高き屋根材です。
けれど、「瓦」とひとことで言ってもその表情はさまざま。陶器の艶、いぶし銀の渋み、セメントのぬくもり、そして金属の機能美。それぞれに異なる魅力があり、選ぶ人の価値観や暮らし方を映し出します。
このコラムでは、瓦屋根の代表的な種類を素材ごとに解説しながら、それぞれがどんな住まいにフィットするのかをご紹介します。選ぶ基準は、見た目だけではありません。性能、コスト、メンテナンス性。そして何より、「どんな暮らしをこの家に描くのか」

この記事を読めばわかること
- 瓦屋根の主な種類とそれぞれの特徴
- 素材ごとのメリット・デメリット
- 耐久性やメンテナンスの違い
- 重さと家の構造、地震対策の視点
- 暮らし方に合った瓦屋根の選び方
素材が変われば、家の印象も変わる
瓦屋根は大きく4つの素材に分類されます。
● 陶器瓦(とうきがわら)
釉薬による光沢と高い耐久性が魅力。鮮やかな色合いで、和風にも洋風にも調和する定番の瓦です。
● いぶし瓦
いぶし焼きによって生まれる銀黒の色味。控えめで上品な表情が、日本家屋にしっとりと馴染みます。
● セメント瓦
セメントと砂を型に入れて成形したもので、昭和から平成にかけて多く使われた瓦。素朴で落ち着いた雰囲気が特徴です。
● 金属瓦
ガルバリウム鋼板などを瓦形に成型した軽量屋根材。デザイン性と機能性の両立が魅力で、リフォームでも選ばれています。
陶器瓦:華やぎと堅牢さを備えた、住まいの主役
釉薬によって発色された陶器瓦は、光を受けて鮮やかに輝きます。塗り直しの必要がないため、住まいの美観を長く保つことができるのも魅力。
メリット
- 色あせしにくく、美しい状態が続く
- 高温焼成により、耐久性・耐水性に優れる
- 約50年を超える長寿命
デメリット
- 重量があるため、構造面での配慮が必要
- 地震時に瓦のズレや割れが起きることがある
いぶし瓦:伝統の中にある静かな存在感
いぶし瓦は、釉薬を使わずに焼き上げ、炭素膜で独特の銀黒の色調をまといます。その風合いは、年月とともに変化し、味わいを増していきます。
メリット
- 日本建築と調和する美しい佇まい
- 紫外線や風雨に強く、耐候性に優れる
- 陶器瓦と同様に長寿命
デメリット
- 表面の炭素膜が劣化するとムラになることも
- 重さがあるため、耐震補強とのバランスが必要
- 材料費・施工費ともにやや高め
セメント瓦:あの頃の屋根を、もう一度
素朴で親しみやすい印象のセメント瓦。塗装仕上げのため定期的なメンテナンスが求められますが、その分、手をかけながら育てていく楽しさがあります。
メリット
- 比較的安価で瓦らしい外観を実現できる
- 遮音性・断熱性に優れている
- 割れにくく、衝撃に強い
デメリット
- 経年で塗膜が劣化し、色あせや剥がれが発生
- 10〜15年ごとに塗装メンテナンスが必要
- 現在は生産数が少なく、補修材の確保が難しい
金属瓦:軽やかで頼もしい、新しい選択肢
ガルバリウム鋼板などの金属素材を使い、瓦のように成形された現代的な屋根材。耐震性や施工のしやすさから、リフォームでも人気です。
メリット
- 他の瓦に比べ圧倒的に軽量で、耐震性に優れる
- 錆びにくく、塗装耐用年数も長い(20〜30年)
- 施工期間が短く、工事の負担が少ない
デメリット
- 金属ゆえに熱を伝えやすく、断熱対策が必要
- 雨音が響くため、防音性に配慮が必要
- 質感は他の瓦に比べてややシンプル
屋根の重さ、それは暮らしの設計の一部
「屋根が重いと地震に弱い?」そんな声をよく耳にします。
確かに、重い屋根は地震時に建物への負荷が大きくなります。しかし、それだけで不利とは限りません。
重要なのは、家の構造とバランス。
例えば、耐震性の高い基礎や構造躯体を持つ家であれば、重厚な瓦屋根も安心して採用できます。一方で、軽い屋根材は揺れに対する負荷が少ない反面、遮音・断熱といった性能は補う必要があります。
屋根材単体での性能ではなく、「暮らし全体を支える設計のひとつ」として考える視点が大切です。
「私らしい屋根」に出会うための5つの視点
迷ったら、次の5つの観点から瓦を見つめ直してみてください。
- 建物との相性
- 伝統的な和風か?それとも現代的な洋風か?
- 外壁との色調・素材の調和は?
- 気候や立地条件
- 台風・地震が多い地域?
- 積雪の多いエリア?
- 暮らしとメンテナンスの関係
- 定期的なメンテナンスは可能?
- メンテナンスフリーを優先したい?
- 家の構造と耐荷重性
- 重い瓦に対応できる構造か?
- 補強工事の要否を含めて検討を
- 予算とライフスパンのバランス
- 初期費用と維持コストのバランスは?
- 建て替え予定やリフォーム周期も考慮を
住まいは、長い時間をともに過ごすパートナー。じっくりと向き合いながら、自分たちにとって最もふさわしい屋根を選びたいものです。
まとめ:瓦は、暮らしに深く寄り添う存在
屋根材を選ぶというのは、単なる建材選びではありません。それは、「どんな暮らしを送りたいか」という自分自身への問いかけです。
粘土の風格をまとう瓦。 銀黒に静けさを宿すいぶし瓦。 懐かしさの中にぬくもりを感じるセメント瓦。 そして、軽やかさと高性能をあわせ持つ金属瓦。
それぞれの瓦に、住まい手の物語が重なります。
選んだ屋根のその下で、どんな時間を過ごしたいのか。
暮らしにしっくりと馴染む屋根が、きっと見つかるはずです。