仏壇は“家具”じゃない。“空気”になる場所を、暮らしの中に。 #column
「仏壇って、どこに置くのが正解なんだろう?」
お盆や法事のたびにふと立ち止まる、そんな問い。かつては“和室の床の間”が定位置だった仏壇も、今の住まいにぴたりとはまるとは限りません。家族の形も、家の形も、どんどん変わっているこの時代。けれど、変わらないのは「大切な人を想う気持ち」です。
この記事では、現代の間取りとライフスタイルに寄り添った“仏壇のある暮らし”を、一緒に考えてみましょう。
◆この記事を読めばわかること
- 現代の住宅で仏壇を置くときの課題と背景
- 仏壇にふさわしい空間の条件と考え方
- 間取りにうまく馴染ませる工夫
- 仏壇がもたらす、目に見えない豊かさ
1. いま、“仏壇のある暮らし”が静かに見直されている
昭和の家には当たり前にあった仏間。でも今、その存在はどこか遠いものになりつつあります。和室がない、収納が少ない、仏壇の意味がよくわからない──。そんな理由で「置かない選択」をする家庭も増えています。
それでも、最近また仏壇に目を向ける人が増えているのは、なぜなのでしょうか?
◆ふと立ち止まれる、心の“間”
手を合わせる時間は、忙しい毎日をいったん休める“心の休憩所”。瞑想のように、無言で自分と向き合う習慣が、精神の安定に役立つと見直されています。
◆次の世代へ、語らない“バトン”
仏壇の中には、故人の写真やお位牌、思い出の品。語らずとも、家族の物語が詰まっています。子どもたちにとって、それは“目に見える家族の歴史”。
◆「祈りの場所」がもたらす安心
社会が不安定なときこそ、心の拠り所がほしくなる。災害時、パンデミック、情勢不安。そんなとき、仏壇に手を合わせるという行為そのものが、“自分を保つ軸”になることも。
→ 仏壇は、単なる宗教儀式の装置ではなく、「心を整える場」として、静かにその存在感を取り戻しています。
2. 現代の家に合う“仏壇の居場所”とは?
「和室の南向き、床の間の東側」──この“黄金パターン”は、もはや神話。でも、どこにでも置いていいわけじゃない。今の住宅事情に合わせた、ちょうどいい“場所探し”をしてみましょう。
◆まずは「静けさ」と「落ち着き」
テレビの隣、洗濯機の前、冷蔵庫の横──じゃ、落ち着かない。できれば人の出入りや音の少ない場所に。心がふっと静まる、そんな空間がベスト。
◆直射日光NG、でも明るさはほしい
日差しは仏壇の大敵。木製の扉がそり、位牌の文字が薄れることも。だから直射は避けつつ、自然光がやさしく差し込むような明るさが理想です。
◆リビングの一角もアリ。仕掛け次第で“祈りの場”に
テレビボードの端に、コンパクトな仏壇を。観音扉で普段は隠して、必要なときだけ開くスタイルも人気。生活に溶け込みながらも、気持ちのスイッチが入る工夫が光ります。
◆寝室や書斎で“一人の時間”を
誰にも邪魔されず、静かに手を合わせたい。そんな人には、寝室や書斎がぴったり。眠る前に今日を振り返る、目覚めのタイミングで感謝を捧げる──それが習慣になると、暮らしの密度が変わります。
→ ポイントは「祈りのための余白」を生活のどこに組み込むか。それが、現代の仏壇スタイルの肝です。

3. “仏壇の間取り”を工夫する3つのアイデア
「スペースがないから無理」と諦める前に、こんな工夫を試してみては?
◆あえて“仕切らない”
個室や仏間を新設しなくても、LDKの一角に棚を造作して“祈りのコーナー”を。間仕切りがなくても、そこだけ空気が変わる。そんな空間演出が可能です。
◆家具に溶け込ませる
既存の収納やインテリアに合わせて、仏壇もデザインを選べば、違和感ゼロ。棚の中に収めて、使うときだけ開ける。家具と一体化した“モダン仏壇”が増えています。
◆祈りやすい床の高さ・座りやすさを考える
仏壇の前で正座するか、椅子を使うか──それによって床の高さや段差の位置も変わってきます。たとえば床を一段下げる“掘りごたつ”的なアイデアで、自然な動作を促す設計もアリ。
→ 形式よりも、“手を合わせたくなる空気”をどうつくるか。それが設計段階でのポイントです。

4. 仏壇がある家って、結局なにが違うの?
仏壇のある家には、目に見えない「豊かさ」が息づいています。それは、形式や義務感じゃなく、日々の生活のなかに生まれる“静かな時間”の積み重ねです。
- ふと故人を思い出す場所がある
- 家族で思い出を語る時間が生まれる
- 子どもが自然に「祈る姿」を見る
- 自分の心をリセットする“スイッチ”になる
→ 仏壇のある暮らしは、家の中に一本の“心の柱”を立てるようなもの。そこに人が集まり、思い出が刻まれ、やさしい時間が流れます。
◆まとめ
「仏壇をどこに置くか」というのは、単なる家具配置の話ではありません。
それは、「家族の想いを、住まいのどこに置くか」という、ちょっと深い問い。
和室がなくても、床の間がなくても大丈夫。
必要なのは、心がすっと落ち着く“場所”をつくること。
それはリビングの片隅かもしれないし、廊下の先の静かなスペースかもしれない。仏壇は、過去を閉じ込める箱ではなく、未来へ手渡す“心の拠り所”。
現代の住まいに、そんな余白を持たせてみませんか?